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第3話 衣装作りのお手伝い

 フルールの採寸を終えた後、さっそくクロエは衣装作りを始め、ルチルとフルールはその手伝いに励んだ。
 集中し、黙り込んで作業をする時間も長かったが、同い年で、かつ人と交流することが好きという共通点を持った三人はお互いの様子を窺いながら、邪魔にならないように気を遣ってお喋りも楽しんだ。それぞれの国のことから、日々の生活、好きなことや将来の夢など、距離感を探りつつも、話題は多岐に渡った。

 打ち解けてきた頃にクロエは少し控えめに、でも思い切りよく口を開いた。

「ふたりはこういうの着たいっていう希望はある? 今回はちょっと無理かもしれないけど……せっかくだから参考にさせて!」

 クロエにそう尋ねられて、ルチルとフルールは手を動かしながらも真剣に考えた。

「ううん、そうだなあ……。正直に言うと私たちは正装にあんまり縁がないんだよね」
「そうね。南の国は開拓地だから、身体を動かすお仕事が多いし、かしこまった場もそんなにないしね」

 今回は依頼のためでもあるけれども、クロエは自分の夢に向かって衣装を前向きに作っている。だから、ルチルもフルールもここで「分からないから」と投げ出すことはしたくなかった。自分のお気に入りの服や、そうでもない服、時々着るとっておきの服などを思い出しながら、思案を巡らせる。

 しばらく考えて、ルチルは「あっ!」と声を上げた。
「そうだ! 動きやすいと嬉しいかな! 正装を着るのに慣れていて、立ち居振る舞いも完璧な人なら問題はないのかもしれないけど、やっぱり私たちは動きやすいとそれだけで安心できるよね」
「ああ、俺も分かるなあ。カチッとした服ってワクワクするし、ドキドキするけど、緊張もしちゃうよね」
「私も動きやすいなのは好きね。うん、うん……そうね……窮屈なのは避けたいわ。細いコルセット……あれはだめ……。あんな細いのをキュッと絞めるのだと思うと、気持ちもキュッとしちゃう」

 フルールは眉を顰めながら母親のクローゼットの中にあったコルセットを思い浮かべた。あれはとても細かった。
 記憶の中の母親は、現在のフルールと同じくらいの身長だったし、体型も似ていたように思う。それなのにあんなに細いコルセットをつけていたのかと思うと驚愕する。フルールは母親がコルセットをつけているところを見たことがなかったから、恐らくは南の国に定住する前に使っていたものなのだろう。もしかしたらその時は少し体型が違っていたのかもしれないし、魔法で見た目を変えていたのかもしれない。だから、母はあれを易々と着ることができていたという可能性もある。でも、あの細いコルセットを見ると、どうしても苦しさを連想してしまう。

 クロエはフルールが珍しく顔を歪めているのを見て「ああ……」と嘆息した。
「ラインを綺麗に見せるためにすっごく強く締め付ける人もいるけど、あれは身体に悪いよねえ……。大丈夫、コルセットなくても綺麗な服っていっぱいあるし、もしフルールがコルセットをつける時があっても、ちゃんと合うサイズにするし、生地の素材とか締め方とか、色々対策はあるから!」

「まあ、ありがとうクロエ! それなら安心ね!」
 顔を綻ばせてフルールはうふふと笑った。

「コルセットもおしゃれなものが結構あるじゃない? でも、無理そうだなって思ってちょっと諦めてたの。嬉しい!」

 そんなフルールの様子を見て同じように笑顔を見せたクロエは何度も大きく頷き、そして壁に貼ってある自分の描いたスケッチを眩しそうに見て、また針を動かした。

「今回は特に何が起こるか分からないから、動きやすいのは必須だよね、任せて! 俺も、貴族のことってラスティカに時々教えてもらったり、服について勉強したりするくらいしか知らないけど、今回は仮面舞踏会らしいから──」
 そう言いながらクロエは作業を終えた仮面を手に取り、自分の顔に当てる。豪奢な飾りがクロエの目元を覆い隠した。そのまま背筋を伸ばして、ゆったりと胸を張る。
 人を判断するのは髪の色や体格、姿勢や動き方などの色々な要素があるけれども、顔の上部を隠すだけでいつもとは随分違って見えた。仮面の目の穴をじっと見つめると、そこから見える菫色は茶目っ気たっぷりに細められていて、それだけはクロエのままだ。
「こうやって、顔が見えないじゃない? だから、素性を隠してるってことで、そんなに厳しくはないみたい。とは言っても、賢者の魔法使いとして行くから変な格好はできないけどね」
 仮面をずらしてウインクをするクロエは、とても都会的で、それがわざとらしくなく自然体だった。

「かっ──」
「うん?」

 ルチルとフルールは同じように両手をグッと握って目を輝かせた。

「かっこいい!」
「かっこいいね!」

 クロエは一気に顔を赤くして手を振った。

「なに、なに!? 突然! 照れちゃうよ!」

 それでもふたりは勢いを止めずにクロエのことを褒めちぎり続けた。クロエは思わず頬に手を当てて身を捩る。

「本当にたくさん勉強しているんだねえ!」
「知識もちゃんと身についててすごい!」
「おしゃれな世界をたくさん知ってて憧れちゃう!」
「それでやりたいこともしっかりあるから、あんなに素敵なものができるんだね!」

 クロエは照れながらもえへへと笑った。

「ありがとう! ……ラスティカがね、たくさん素敵な世界を見せてくれて、色んなものを教えてくれたんだ。だから、俺がこうして好きな服作りを続けられているのはラスティカのおかげなんだ」

 大切な宝箱の中身をそっと教えてくれるように、クロエは穏やかな声で言った。
 それがあまりにも幸せそうだったから、ルチルもフルールもとても嬉しくなった。

「クロエは、ラスティカさんのことが本当に大好きなんだね」
「うん、俺の大事なお師匠様だからね!」