※ページ下部メッセージフォーム調整中です

ルチルの誕生日2021 お誕生日の夜に

 ルチルはみんなからたくさんたくさんお祝いの言葉とプレゼントをもらって、色んな人が作ってくれたごちそうもたっぷり食べて、ついでにお酒もいっぱい飲んだ。

 夜も遅くなって誕生日会も解散となり、ルチルとフルールは手を繋ぎながら自分たちの部屋へと向かっていた。ルチルは素敵な誕生日を過ごせたことの満足感と、顔色は変わらないもののかなりの酒量だったこともあり、いつもよりも更に上機嫌で、繋いだ手をぶんぶんと振りながら歩いている。
 フルールは途中途中でノンアルコールを挟んでいたためにそこまでは酔っていないが、やっぱり嬉しくて楽しくて、あっちこっちに揺らされる手を微笑みながらそのままにさせていた。

「とっても素敵な誕生日だった!」
「ね、素敵だった!」
 南の国でだって素敵な誕生日会が毎年開かれていたけれども、少しずつではあるけれども歩み寄って、仲良くなっていって、大切な仲間になった人たちに祝われるのもとっても素敵だ。
 ルチルはもちろんとても嬉しかったし、フルールだって幸せだった。

 ルチルの右耳にかかった髪の毛がぴょこんと揺れる。ルチルはいつも髪の毛を下ろしているが、今日は違う髪型をしていた。これはクロエが「誕生日だからもっともっとおしゃれをしよう!」とセットをしてくれた特別な髪型だ。ルチルははしゃいでも酔っ払っても、一日中崩れないように気をつけていた。崩れても、きっとクロエならお願いすれば直してくれるだろうが、特別な日にセットしてくれた特別な髪型は崩したくなかった。

 でもそんな一日ももう終わりだ。本当に楽しくて嬉しくて幸せな誕生日だったとルチルはうっとりと笑った。踊り出しそうに軽やかな足取りでフルールの手を引っ張る。フルールは目を細めてそれに追従した。

 なんだかとっても楽しくなって、ふたりで声を上げて笑いながら自室へと転がり込んだ。
 ルチルはそのままベッドへと寝転がる。
 フルールも引っ張られたが、足を踏ん張って逆に手を引く。フルールは倒れずに済んだが、しかし力が足りずにルチルを起き上がらせることもできなかった。
「もう! ルチル、せっかくのお洋服がシワになっちゃうわ」
「んふふ」
 フルールがお酒に酔いすぎないように気をつけているのは、ルチルがこんんなふうにたくさん飲むからだ。ルチルは酒豪ではあるが、酔うといつも以上に豪快になるし、またそれゆえに二日酔いにもなりがちだ。そんな時にルチルに頼られるのが好きなので、自らは不調にならないようにとフルールはお酒の量を調整して酔いすぎないようにしている。
「ほら、起きて起きて」
「やだ」
「やだじゃないの」
「いま、とってもいい気持ちだから、このまま寝ちゃいたい」
「そうね、その気持ちは分かるよ。でも明日のあなたがきっとびっくりしちゃう。ああ、お水も飲んで」
「うん……」
 ルチルは半身を起こしてフルールから渡された水を呷った。
 その隙にフルールはストールやアクセサリーを取ったが、コップを空にしたルチルが腰に絡み付いてきて解けそうになかったのでその手を止めた。着替えさせるのは諦めることにした。
 ルチルの手から落ちかかっていたコップを受け取って、机の上に置く。呪文を唱え、ルチルと自分に寝巻きを着せて、ついでに身体もすっきりさせる魔法をかけた。そうすればすっかりいつもの自分たちだ。特別な日ももう終わりで、その幕を閉じようとしている。

 抵抗がなくなった身体を抱き寄せて、ルチルは満足そうに息を吐いた。それがくすぐったくて、フルールは身をよじった。それからルチルの顔を覗き込んで顔を緩める。
「ルチル」
「うん」
「ね、あらためて、本当におめでとう」
「ありがとう。何回でも、とってもうれしい」
「うん、私も、とってもうれしい」

 毎年ルチルとフルールはお互いの誕生日を祝福していたが、一日の一番はじめと、一番最後におめでとうを言えるようになったのは結婚してからだ。一緒のベッドで朝起きて、まだ目が開けきらない時にそっと囁き、星が輝く頃にまた、夢への誘いに寄り添って耳元で唱える。そうできるのがとても嬉しくて、胸があたたかくなる。ふたりだけに許された、特別な日の特別な時間だ。

 ルチルはフルールの額に唇を寄せる。フルールはお返しに頬にキスを落とした。目を閉じて、ルチルの背中に手を回してゆっくりとさする。ルチルもフルールの身体をとんとんと叩いた。

「おやすみなさい、ルチル」
「おやすみ、フルール」

 素敵な一日はこれで終わりだが、きっとそれはこの後も、ずっとずっと余韻を残して、新しい素敵なことがまた生まれるだろう。そんなふうにふたりは信じていたし、それが実現するように力を尽くしていくのだ。