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ルチルの誕生日2023 『ウーくん』のぬいぐるみ

「フルール、フルール」

 フルールがひとりでいる時、パタパタという軽い足音と共に後ろから呼び止められた。振り向くと、両手にスケッチブックと筆記用具を抱えた晶がいた。

「晶さん、どうしたんですか?」

 晶は辺りを見回してから、フルールの耳元に顔を近づける。フルールも晶の声を聞き漏らさないように顔を寄せた。
「フルール、ルチルの新しい絵本の『ウーくん』って知ってますか?」
 フルールは口元に手をやって小声で答えた。
「子どものライオンさんですね」
「よかった! その、ウーくんってどんな感じだったか分かりますか? なんとなくこんな感じだったかなと思うんですけど……あんまりしっかりは見ていないのもあって自信がなくて」

 そう言って晶はスケッチブックを開いた。そこにはウーくんが色々な角度から描かれている。フルールには読めない言葉で隙間にたくさんのメモも書かれていた。晶がたくさんの時間をかけてウーくんについて考えていたのがよく分かる。

「素敵! すごくよく描けてらっしゃいますよ。うん、ルチルの絵じゃないウーくんならこういうふうだと思います。ああでも、目が左右逆かも」
「ありがとうございます! さすがフルールです、助かります!」
「お役に立てて嬉しいです。もし他にお手伝いできることがあるならやりますよ、ルチルには内緒で。それとも、何もしない方がいいですか?」
「……バレました?」
「ふふ、詳しいことは分からないですけど、きっとルチルの誕生日だなって」
「ですよね……。何かあったらまた相談してもいいですか? あっ、あとしばらく私の部屋には突然は来ないでいただけると助かります」
「はい、分かりました」

 ちょっと晶は視線を彷徨わせて、それから眉を下げて質問を口にした。

「本当にルチルの誕生日、フルールは一緒に花霧の遊戯場に来ないんですか?」

 フルールは首を傾げて答える。
「うーん、晶さんがルチルとふたりでいるのが気まずいとか、嫌とかって言うなら考えますけど」
「そういうことではないですが……」
「よかった。晶さんの懸念してることも分かります。雲の街の友達からの相談ごとで、そういうことを聞くこともあったので。でも、大丈夫です。ルチルのことをよろしくお願いしますね。私、ルチルから話を聞くのが楽しみなんです」
 それでも不安そうにしている晶にフルールは冗談を言う調子で続けた。
「それに、私のことも誕生日に花霧の遊戯場でお祝いしてくださるんでしょう? その時までのお楽しみにさせてください」
 それを聞いた晶は顔を緩めて何度か頷いた。
「はい、もちろん! とっておきの誕生日になるようにがんばりますね!」

 ルチルと晶が花霧の遊戯場から帰ってきて、それから行われたルチルの誕生日パーティーも大盛り上がりだ。ブラッドリーとルチルが酒飲み勝負をしたり、ミスラが巨大で美しい魚をいきなり部屋の真ん中に出したりと多少の騒動はあったものの、平和で楽しい時間が繰り広げられた。

「それでね、賢者様が本当は登ったり降りたりする乗り物に乗るつもりだったっておっしゃったから、私も魔法でやってみたの!」
「……ルチル、あなた絶対すごいスピード出したでしょう」
「気持ちよかったあ!」
「晶さんが吹き飛ばないでよかった……」

 花霧の遊戯場であったことをルチルが話していた時に、中座していた晶が大きなライオンのぬいぐるみのウーくんを持って今日のパーティー会場に戻ってきた。

「あっ、ウーくん!」
「わ、すごい!」
「はい、ウーくんです! せっかくなのでウーくんも一緒にパーティーを楽しめたらと思って」

 晶がルチルにウーくんを渡すと、ルチルは思いっきりウーくんを抱きしめた。頬擦りをして、頭を撫でる。

「賢者様、本当に今日はありがとうございます! ウーくんも、ありがとう!」
「私も楽しかったです! ありがとうございました!」

 そう微笑む晶に、ちょっと小声でフルールは「ごめんなさい、ルチルの魔法、大丈夫でしたか?」と尋ねた。晶は「正直とってもびっくりしましたけど、久しぶりにああいうのをできてスカッとしました!」とフルールに耳打ちする。「なら、よかったです」と晶の肩を軽く撫でてフルールは微笑んだ。

 フルールはウーくんとの会話をひとりで繰り広げているルチルの方を見て、それからちょっと辺りを見回して、新しいグラスにドリンクを注いだ。

「ね、ルチル、これ、これ、おいしいよ」
 ルチルはフルールが差し出すグラスを受け取って、一気に煽る。そしてグラスを置き、行儀悪くテーブルに肘をついてバンバンと自分の腿を叩いた。
「あははは、ジュースだ! グレープフルーツジュース! にがい! おいしい! もう一杯!」
「次はお水ね。ジュースも飲み過ぎはだめです」
「んふふ、そうだね、うん」

 返事が適当になっているルチルをちょっと離れたところで眺めていたミチルは、苦々しく呟いた。

「兄様、ぜえったい、飲み過ぎ」