「フルール!」
空き部屋でルチルの誕生日パーティーのために準備をしているフルールの背中に、勢いよくドアを開けたルチルが飛びついた。
「わあ、びっくりした! どうしたの?」
フルールはルチルの手をとんとんと叩きながら顔をルチルの方へ向けた。ルチルが少し腕の力を抜いて、お互い向き合うように抱き合う。
「ルチル、安らぎのオルヘルで晶さんとお茶会だったでしょう。終わったの?」
「うん、楽しかった! いっぱい賢者様とお喋りできたよ」
「それならよかった」
一度額を合わせて、どちらともなく自然に鼻を擦り合わせた。ルチルがフルールの目元に唇を落とす。
「フルールが賢者様と一緒にお買い物に行ってくれたんだって? ありがとう!」
「私はただ一緒に行っただけ。晶さんがたくさんルチルのこと考えて選んでくれたんだよ。これが好きそう、あれも好きかなって。私が助言しちゃうとほぼ答えになっちゃうから黙っててくださいねって言われたから、私はずっと晶さんの様子を見守ってたの。だから本当に晶さんがルチルのことを想って用意したお茶会だったんだよ」
「ふふ、嬉しい!」
「うん、ね、よかったね」
今度はフルールがルチルの頬に口づけた。
ルチルはくすぐったそうに肩をすくめて、フルールの瞳を覗き込んだ。
「それで、フルールにお願いがあるんだけど」
「なあに、お誕生日さん。特別に聞いちゃうわ」
「特別じゃなくても聞いてくれるんでしょ」
「そうかも」
ふたりで見つめあって忍び笑いをする。
「あのね、出来たらでいいんだけど、安らぎのオルヘルで流れていた曲をフルールに弾いて、歌も作ってもらえたら嬉しいなって思って」
「いいよ。知ってた? 私、そういうの大得意なの。——でも、そうだなあ、よかったらパーティで一緒にみんなで作らない? そっちの方が素敵になりそう」
ルチルはいっそう破顔して、フルールにぎゅっと抱きついた。
「そうしたい! とっても素敵!」
フルールはひとまず自分の残りの誕生日パーティーの準備をミチルとレノックス、それにフィガロにお願いした。彼らは自分たちもルチルのために色々準備しているにも関わらず快く請け負ってくれた。ついでにルチルも自分の誕生日なのに色々と準備をしているらしい。
その空いた時間でルチルが招かれた安らぎのオルヘルで流れていた曲を自分の竪琴で弾くためのアレンジを加えていく。楽器が違うと奏でられる響きも音数も変わってくる。
中庭で曲を弾いていると、ラスティカが顔を覗かせた。
「やあ、こんにちは。素敵な曲だね。穏やかで優しく、軽やかだけれど、力強さもある」
「ラスティカさんこんにちは。晶さんがルチルを招待してくれた安らぎのオルヘルで流れていたそうです。ルチルの誕生日パーティーでみんなでこれに歌をつけようと思って」
「素敵だね! 僕も一緒に弾いてもいいかな?」
「もちろん! とっても嬉しいです! ルチルもきっと喜びます」
ラスティカはチェンバロを出して目配せをすると、先に奏でたフルールの演奏にいとも容易く美しい音色を重ねた。
その音に魔法舎にいた猫や小鳥も少しずつ集まってきた。
魔法使いたちと晶も徐々に大きくなっていく音色を聞きつけて中庭に顔を覗かせた。
ルチルの元にもそのメロディは届き、中庭に駆け出した。それを皮切りに他の者たちも外に出てくる。
手を取って踊ったり、鼻歌を加えたり、ラスティカは既に歌詞を作って歌い出していた。
本来ルチルの誕生日パーティーはまだのはずなのに、既に始まっているかのようだった。
